銀行融資とファクタリング、どちらを選ぶ?金融機関担当者の本音
「銀行から融資を受けるべきか、それとも最近よく聞くファクタリングを利用すべきか…」。
院長先生や施設の管理者様であれば、一度はこうした資金調達の選択肢で頭を悩ませた経験があるのではないでしょうか。
こんにちは。
医療・介護分野の経営支援を専門とする中小企業診断士の藤沢と申します。
これまで15年以上にわたり、100件以上の診療報酬ファクタリング導入支援をはじめ、多くの医療法人様や介護事業者様の資金繰り改善に携わってまいりました。
現場を見ていると、この「銀行融資」と「ファクタリング」のどちらを選ぶべきかという問いに、多くの方が明確な答えを持てずにいると感じます。
そこで本記事では、制度の表面的な比較に留まらず、医療・介護の現場で実際にどのような判断が下されているのか、そして金融機関の担当者は本音でどう考えているのか、という実務的な視点から解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたのクリニックや施設にとって、今どちらの選択肢が最適なのか、明確な判断基準が手に入ります。
目次
銀行融資とファクタリングの基本理解
まず、どちらを選ぶかを判断するために、それぞれの仕組みの根本的な違いを正確に理解しておく必要があります。
言葉は似ていても、その性質は全く異なるものです。
それぞれの仕組みと資金調達の流れ
銀行融資とは、金融機関から事業資金を「借り入れる」ことです。
つまり、会社の「負債」が増えることになります。
返済時には、元本に加えて利息を支払う必要があります。
一方、ファクタリングとは、将来入金される予定の診療報酬や介護報酬(売上債権)をファクタリング会社に「売却する」ことです。
これにより、入金を待たずに早期に現金化できます。
これは資産の売却であり、借金ではないため「負債」にはなりません。
審査の違い:信用力 vs. 売上債権
審査の対象が大きく異なる点も、重要なポイントです。
- 銀行融資の審査対象:申込者である自社の信用力や返済能力が重視されます。決算書の内容や事業計画、担保・保証人の有無などが厳しく審査されます。
- ファクタリングの審査対象:報酬を支払う売掛先の信用力が最も重視されます。診療報酬や介護報酬の場合、支払元は国保や社保といった公的機関であるため、信用力は極めて高く、審査に通りやすい傾向があります。
つまり、たとえ自社が赤字決算や債務超過であっても、ファクタリングであれば利用できる可能性が十分にあるのです。
コスト構造の比較:金利と手数料
資金調達にかかるコストの考え方も異なります。
項目 | 銀行融資 | ファクタリング |
---|---|---|
コストの種類 | 金利(年率) | 手数料(料率) |
コストの目安 | 年1%~3%程度 | 月1%~(2社間の場合、より高くなる傾向) |
特徴 | 長期的な返済計画が立てやすい | 短期・一括での資金化が前提 |
ファクタリングは手数料率だけ見ると割高に感じられるかもしれませんが、これはあくまで短期利用を前提としたサービスだからです。
利用期間や目的によって、どちらが有利かは変わってきます。
キャッシュフローへの影響
銀行融-資を受けると、貸借対照表(B/S)の負債が増加します。
これは、今後の融資審査において不利に働く可能性があります。
対してファクタリングは、売掛金という資産が現金に変わるだけなので、貸借対照表はスリムになります(オフバランス化)。
負債を増やさずにキャッシュフローを改善できる点は、ファクタリングの大きなメリットと言えるでしょう。
医療・介護現場での実態:どちらが選ばれているのか?
では、理論上の違いだけでなく、実際の医療・介護の現場ではどのように使い分けられているのでしょうか。
私の100件を超える支援実績から見えてきた実態をお話しします。
資金繰りの壁に直面する場面とは
医療・介護業界に共通する最大の資金繰りの課題は、報酬の入金サイトが長いことです。
サービスを提供してから、実際に国保や社保から報酬が振り込まれるまでには、約2ヶ月ものタイムラグが生じます。
この間に、
- スタッフの給与や賞与の支払い
- 医薬品や医療機器の購入費用の支払い
- 急な設備トラブルによる修繕費
- 納税資金の確保
といった支出が重なると、黒字経営であっても一時的に資金がショートしてしまう「黒字倒産」のリスクに直面するのです。
ファクタリング導入100件から見えた傾向
私が支援してきたケースを分析すると、ファクタリングが選ばれる場面には明確な傾向があります。
それは、「緊急性」と「スピード」が最優先されるケースです。
- 銀行融資の審査を待っていては、賞与の支払いに間に合わない。
- 高額な医療機器が突然故障し、即座に修理・買い替えが必要になった。
- 新型コロナウイルス関連の補助金が入金されるまでの「つなぎ資金」が急遽必要になった。
こうした「待ったなし」の状況で、最短即日で資金化できるファクタリングが窮地を救う場面を、私は何度も見てきました。
銀行融資が機能しづらいケースの特徴
一方で、銀行融資がうまく機能しない、あるいは時間がかかりすぎるケースもあります。
- 創業・開業して間もない:過去の実績がないため、事業計画の説得力が求められ、審査のハードルが高くなります。
- 赤字決算や債務超過:返済能力に疑問符がつき、銀行は融資に慎重になります。
- 追加の担保や保証人がない:すでに融資枠を使い切っている場合、追加融資は難しくなります。
このような状況にある経営者様にとって、ファクタリングは非常に有効な選択肢となります。
「本当はどうしてる?」金融機関担当者のリアルな声
銀行とファクタリングは競合するサービスだと思われがちですが、現場の金融機関担当者の見方は少し違います。
私が付き合いのある銀行の融資担当者は、こう本音を漏らしていました。
「正直なところ、私達も企業の状況に応じてファクタリングを勧めることはありますよ。緊急で資金が必要な経営者様に対して、1ヶ月もかかる融資審査を案内するのは心苦しいですから。融資とファクタリングは、それぞれの役割がある『車の両輪』のようなものだと考えています。」
金融機関側も、両者の特性を理解した上で、企業の成長ステージや状況に応じた最適な使い分けが重要だと認識しているのです。
判断ポイント:自社に合った資金調達の選び方
それでは、具体的にあなたのクリニックや施設がどちらを選ぶべきか、判断するためのポイントを整理しましょう。
重要なのは「緊急性」「使途」「返済能力」の3つの視点です。
緊急性・使途・返済能力をどう見極めるか
まずは、なぜ資金が必要なのか、いつまでに必要なのかを明確にしましょう。
- 緊急性:1週間以内に資金が必要ですか? それとも1ヶ月以上の余裕がありますか?
- 使途:運転資金の補填ですか? それとも計画的な設備投資ですか?
- 返済能力:安定した返済計画を立てられますか? それとも短期的な資金繰りの改善が目的ですか?
これらの問いに答えることで、自社が置かれている状況が客観的に見えてきます。
銀行融資が向くケース、ファクタリングが向くケース
状況が整理できたら、以下の基準に当てはめてみましょう。
✅ 銀行融資が向くケース
- 資金調達までに1ヶ月以上の余裕がある
- 事業拡大や新規開業など、計画的な設備投資をしたい
- 金利コストを抑え、長期的な視点で返済計画を立てたい
- 決算状況が良好で、銀行からの信用力も高い
🚨 ファクタリングが向くケース
- 数日~1週間以内に緊急で資金が必要
- 急な資金ショートや、つなぎ資金を確保したい
- 銀行に断られた、あるいは審査に時間がかかりすぎる
- 負債を増やさずにキャッシュフローを改善したい
両者を組み合わせる戦略的活用
優れた経営者は、銀行融資とファクタリングを敵対するものとしてではなく、補完し合うものとして捉え、戦略的に活用しています。
例えば、
- 基本戦略:事業の根幹となる設備投資や長期運転資金は、低金利の銀行融資で賄う。
- 機動的対応:予期せぬ資金需要や短期的な資金繰りの悪化には、スピード重視でファクタリングを活用する。
このように使い分けることで、銀行の融資枠を温存しつつ、いざという時の資金調達手段も確保しておくことができます。
これが現代の賢い経営者の資金調達術です。
資金調達を“経営改善の一歩”にする視点
資金調達は、単なる「金策」ではありません。
なぜ資金が不足したのか、その原因を突き止め、経営体制を見直す絶好の機会です。
ファクタリングで急場をしのぎつつ、その間に事業計画を練り直し、銀行融資を受けられるような強い財務体質を目指す。
このように、資金調達を経営改善のサイクルに組み込む視点を持つことが、持続的な成長には不可欠です。
制度と支援策を味方につける
資金調達の方法は、銀行融資とファクタリングだけではありません。
特に医療・介護事業者は、公的な制度や支援策を味方につけることで、より有利な条件で経営を安定させることができます。
診療報酬ファクタリングと制度の関係
診療報酬や介護報酬を対象としたファクタリングは、他の業種の売掛債権に比べて非常に有利な条件で利用できる可能性があります。
その理由は、債権の支払元が国や地方自治体といった公的機関であるため、貸し倒れリスクがほぼゼロだからです。
この信用力の高さから、一般的な商取引のファクタリングよりも手数料が低く設定される傾向にあります。
この仕組み、知らないと損をします。
公的融資制度・補助金との併用可能性
日本政策金融公庫や地方自治体が提供する公的融資は、民間の銀行よりも低い金利で利用できる場合があります。
また、IT導入補助金や事業再構築補助金など、返済不要の補助金も数多く存在します。
これらの制度とファクタリングを組み合わせることも可能です。
例えば、補助金の入金までのつなぎ資金としてファクタリングを利用するといった活用法が考えられます。
最近の制度改正と金融支援のトレンド
金融庁は、事業者が売掛債権を担保に融資を受けやすくする法改正などを進めており、国全体としてファクタリングを含む多様な資金調達を後押しする流れが強まっています。
金融機関も、単に融資をするだけでなく、経営者の相談に乗り、最適なソリューションを提案する「伴走支援」の姿勢を強めています。
こうしたトレンドを理解し、積極的に専門家や金融機関に相談することが重要です。
「知らないと損する」支援策のチェックリスト
自社で使える制度がないか、一度チェックしてみましょう。
- [ ] 日本政策金融公庫の各種融資制度(特にセーフティネット貸付など)
- [ ] 信用保証協会の保証付き融資
- [ ] IT導入補助金(電子カルテや請求ソフトの導入に)
- [ ] 小規模事業者持続化補助金(広報費や業務効率化投資に)
- [ ] 事業再構築補助金(新規事業への展開に)
- [ ] 各都道府県・市区町村が独自に行う融資制度や補助金
よくある誤解と注意点
最後に、ファクタリングに関してよくある誤解を解き、利用する際の注意点についてお伝えします。
正しい知識が、思わぬトラブルを防ぎます。
「ファクタリングは最後の手段」って本当?
これは最も多い誤解の一つです。
かつては高利なイメージがありましたが、現在では健全な資金調達手法として広く認知されています。
現場の声を踏まえると、むしろ経営の選択肢を広げる「戦略的な一手」として活用する経営者が増えています。
私自身も、親が経営していた診療所の資金繰りが悪化した際、ファクタリングによって窮地を脱した経験があり、その有効性を身をもって知っています。
銀行融資を受けながらファクタリングは可能?
はい、原則として可能です。
ファクタリングは借金ではないため、信用情報機関に記録が残ることはありません。
したがって、銀行の融資審査に直接的な影響を与えることは考えにくいです。
ただし、銀行との融資契約の中に「債権譲渡禁止特約」が含まれている場合は注意が必要です。
契約前に、取引銀行との契約内容を確認しておくことをお勧めします。
契約時のチェックポイントとトラブル防止策
残念ながら、ファクタリング業者の中には法外な手数料を請求する悪質な業者も存在します。
トラブルを避けるために、契約時には以下の点を必ず確認してください。
- 手数料の内訳は明確か?:基本手数料以外に、登記費用や事務手数料など、追加費用がないかを確認しましょう。
- 契約形態は何か?:償還請求権のない「ノンリコース契約」かを確認します。ノンリコースであれば、万が一売掛先が倒産しても返済義務は生じません。
- 会社の信頼性は十分か?:会社の所在地、連絡先が明確で、実績が豊富な会社を選びましょう。
金融機関との関係性を損なわない進め方
ファクタリングを利用する際に、取引銀行との関係悪化を心配される方もいらっしゃいます。
大切なのは、隠し事をせず、誠実なコミュニケーションを心がけることです。
可能であれば、「短期的な資金繰り改善のために、ファクタリングの利用を検討しています」と事前に相談してみるのも一つの手です。
誠実な姿勢は、かえって銀行からの信頼を高めることにも繋がります。
まとめ
銀行融資とファクタリング、どちらか一方が絶対的に優れているというわけではありません。
選択の鍵は、自社の「目的」と「状況」を正しく見極めることです。
最後に、本記事の要点を振り返ります。
- 銀行融資は「借入」、ファクタリングは「債権売却」であり、根本的な仕組みが異なる。
- 銀行融資は「計画的・長期的」な資金調達に、ファクタリングは「緊急・短期的」な資金調達に向いている。
- 医療・介護報酬のファクタリングは、支払元の信用力が高いため、他の業種より有利な条件で利用できる可能性がある。
- ファクタリングは「最後の手段」ではなく、銀行融資と組み合わせる「戦略的な一手」になり得る。
- 契約時には手数料や契約形態をよく確認し、信頼できる業者を選ぶことが最も重要。
資金繰りの悩みは、経営者にとって大きなストレスです。
しかし、正しい知識を身につけ、利用できる制度を味方につければ、その悩みは必ず乗り越えられます。
この記事が、あなたのクリニックや施設が経営を守り、さらに攻めの一歩を踏み出すためのきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。