資金ショートを防ぐ!医療・介護現場のキャッシュフロー管理術
「売上は順調なはずなのに、なぜか月末になると資金繰りが苦しい…」。
もしあなたが医療機関や介護施設の経営に携わっているなら、一度はこんな悩みを抱えたことがあるかもしれません。
こんにちは。
中小企業診断士・ファイナンシャルプランナーの藤沢信一と申します。
私はこれまで15年間、医療・介護の現場に特化して、100件以上の資金繰り改善やファクタリング導入のご支援をしてきました。
実は、医療・介護業界は、そのビジネスモデルの特性上、「黒字なのに資金がショートする」という危険性を常に抱えています。
これは決して他人事ではなく、私が現場で見てきた多くの真面目な経営者の方々が直面してきた厳しい現実です。
この記事では、なぜ資金ショートが起こるのかという根本的な構造から、今すぐ実践できる具体的なキャッシュフロー管理術、そして国や金融機関の制度を賢く活用する方法まで、私の経験のすべてを注ぎ込んで解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは資金繰りの悩みから抜け出すための「確かな地図」を手にしているはずです。
さあ、安定経営への第一歩を一緒に踏み出しましょう。
目次
資金ショートの現実とその背景
よくある資金ショートの事例
「藤沢さん、もうどうしたらいいか…来月の職員の給料が払えそうにありません」。
ある介護施設の経営者から、悲痛な声で相談を受けたことがあります。
その施設は地域でも評判が良く、利用者も増え、売上は右肩上がりでした。
しかし、その裏側で資金繰りは火の車だったのです。
原因は、事業拡大に伴う人件費の増加と、介護報酬の入金が2ヶ月後というタイムラグのダブルパンチでした。
このように、事業が順調に見える時ほど、資金ショートのリスクは高まるのです。
医療・介護特有の資金繰り構造とは
なぜ、医療・介護業界では特に資金繰りが難しくなるのでしょうか。
それは、収入と支出のタイミングに大きな「ズレ」があるからです。
- 支出(先に出ていくお金):スタッフの給与、家賃、医薬品や消耗品の仕入れ代金など、毎月決まった日に出ていきます。
- 収入(後から入ってくるお金):診療報酬や介護報酬は、国民健康保険団体連合会(国保連)や社会保険診療報酬支払基金に請求してから、実際に振り込まれるまで約2ヶ月かかります。
この「収入の2ヶ月遅れ」こそが、キャッシュフローを圧迫する最大の要因です。
この仕組みを知らないと、いつの間にか手元の現金が枯渇するという事態に陥ってしまいます。
売上があっても資金が足りない理由
帳簿上は利益が出ている状態、いわゆる「黒字」であっても、手元に支払うためのお金がなければ会社は立ち行かなくなります。
これを「黒字倒産」と呼びます。
利益が出ていても、安心はできません。
大切なのは、帳簿上の数字ではなく、「今、手元にいくら現金があるか」「来月、いくら現金が入ってきて、いくら出ていくのか」を正確に把握することです。
現金(キャッシュ)は、人間で言えば血液のようなもの。
どんなに健康な人でも、血流が止まれば命に関わります。
会社も同じで、キャッシュの流れが止まれば、たとえ黒字でも事業を継続できなくなるのです。
キャッシュフローを見える化する基本
キャッシュフロー計算書の読み方・使い方
資金の流れを把握するための最も強力なツールが「キャッシュフロー計算書」です。
難しく考える必要はありません。
これは、あなたのクリニックや施設の「お金の健康診断書」だと思ってください。
特に注目すべきは「営業キャッシュフロー」です。
これがプラスであれば、本業でしっかり現金を稼げている証拠。
もしマイナスなら、早急な対策が必要な危険信号です。
まずは税理士さんに「うちの営業キャッシュフローはどうなっていますか?」と聞いてみることから始めましょう。
「運転資金」の考え方とその管理
運転資金とは、事業を日々回していくために必要なお金のことです。
医療・介護業界の場合、簡単に言うと「報酬が入ってくるまでの2ヶ月間を乗り切るためのつなぎ資金」と考えると分かりやすいでしょう。
運転資金が不足すると、支払いのために慌てて借入をしたり、最悪の場合、支払いが滞ったりしてしまいます。
自院・自施設にとって、最低限どれくらいの運転資金が必要なのかを把握しておくことが、安定経営の第一歩です。
現金残高だけを見ていてはいけない理由
「通帳にまだこれだけ残高があるから大丈夫」という考え方は非常に危険です。
なぜなら、その残高は「すでに出ていくことが決まっているお金」を含んでいるかもしれないからです。
危険な考え方 | 安全な考え方 |
---|---|
通帳の残高だけを見ている | 1ヶ月後、2ヶ月後の入出金予定を把握している |
「なんとなく」で資金繰りを判断 | 「資金繰り表」で将来のお金の動きを予測している |
資金が足りなくなってから慌てる | 事前に資金不足を予測し、対策を打っている |
大切なのは、今の残高ではなく、未来のお金の流れを予測し、管理することです。
そのための最強の武器が、次にご紹介する「資金繰り表」です。
今すぐ見直すべき5つの資金管理ポイント
①診療・介護報酬の入金タイミングの把握
基本中の基本ですが、国保連からの正確な入金日をカレンダーに書き込むなどして、必ず把握しておきましょう。
この入金額が、あなたの事業の生命線です。
②支払いサイトの調整と交渉術
医薬品や消耗品の仕入れ業者との支払い条件を見直すことも有効です。
例えば、「月末締め・翌月末払い」を「翌々月末払い」に延長してもらえないか交渉してみるのです。
「いつもお世話になっております。おかげさまで事業も順調なのですが、キャッシュフロー改善のため、お支払いサイトのご相談は可能でしょうか?」といった形で、丁寧にお願いしてみましょう。
たったこれだけで、資金繰りは大きく改善することがあります。
③毎月の資金繰り表の作り方
Excelで構いません。
難しく考えず、以下のようなシンプルな表を作ってみましょう。
- 前月の繰越残高:前の月の終わりにいくら現金が残っていたか。
- 今月の収入:診療・介護報酬、その他収入の合計。
- 今月の支出:人件費、家賃、仕入れ、リース料、返済などの合計。
- 翌月の繰越残高:1 + 2 – 3 の結果。
これを最低でも3ヶ月先まで予測して作る習慣をつけるだけで、「いつ、いくら資金が足りなくなりそうか」が事前に分かり、落ち着いて対策を打てるようになります。
④突発的支出に備える「予備費」の考え方
医療機器の急な故障、スタッフの急な退職に伴う採用費、報酬の返戻など、予期せぬ支出は必ず発生します。
こうした事態に備え、月間支出の1〜2ヶ月分程度の現金を「予備費」として確保しておくことを強くお勧めします。
この予備費があるだけで、精神的な安心感が全く違います。
⑤経営者が数字から逃げない習慣
ここまで様々な手法をお伝えしてきましたが、最も大切なのは、経営者であるあなた自身が「数字と向き合う」と決めることです。
苦手意識があるのはよく分かります。
しかし、資金繰りは経営の根幹です。
まずは週に1回、30分でも良いので、通帳と資金繰り表を眺める時間を作りましょう。
この小さな習慣が、あなたの会社を危機から救う大きな力となります。
「制度」を味方に!資金対策の選択肢
補助金・助成金を上手に活用するコツ
国や自治体は、医療・介護事業者を支援するための様々な補助金・助成金を用意しています。
例えば、ITシステム導入のための「IT導入補助金」や、スタッフの処遇改善に関する助成金などです。
これらの制度は返済不要のお金であり、活用しない手はありません。
- ポイント1:自社の課題(例:業務効率化、人材確保)に合った制度を探す。
- ポイント2:公募期間が短いものが多いので、常にアンテナを張っておく。
- ポイント3:申請書類の作成が複雑な場合も。商工会議所や私のような専門家に相談するのも一つの手です。
診療報酬ファクタリングの仕組みと導入時の注意点
「どうしても来月の資金が足りない!」という緊急事態に有効なのが、診療報酬ファクタリングです。
これは、2ヶ月後に入金される予定の診療報酬(債権)を専門業者に買い取ってもらい、手数料を支払うことで、最短数日で現金化できるサービスです。
実は、私の親が経営していた診療所も、かつて資金繰りの危機に陥った際にこのファクタリングで救われた経験があります。
融資と違って負債にならず、担保や保証人も不要なため、迅速な資金調達が可能です。
ただし、手数料がかかるため、あくまで緊急時の手段と位置づけ、恒常的な利用は慎重に検討すべきです。
導入する際は、必ず複数の業者から見積もりを取り、契約内容をしっかり確認してください。
金融機関との付き合い方と支援策の引き出し方
普段から地域の金融機関と良好な関係を築いておくことも、いざという時のための重要な備えです。
定期的に試算表や資金繰り表を持参し、事業の状況を報告しておきましょう。
そうすることで、融資の相談がスムーズに進むだけでなく、担当者から有益な情報(新しい補助金制度など)を得られることもあります。
日本政策金融公庫など、医療・介護分野に特化した融資制度を持つ機関もありますので、積極的に情報を集めてみましょう。
現場で使える!藤沢流キャッシュフロー改善アプローチ
実際の支援事例:資金ショートから脱出した介護施設
私が支援したあるデイサービス施設は、利用者も多く評判も良かったのですが、常に資金繰りに追われていました。
原因を分析すると、消耗品の在庫を過剰に抱え、支払いサイトも業者に有利な条件のまま放置されていたのです。
そこで、まずは徹底的な在庫管理と、主要な取引先への支払いサイト交渉を実行しました。
さらに、簡単な資金繰り表を導入して毎月のキャッシュの流れを「見える化」した結果、3ヶ月後には資金繰りが大幅に改善し、経営者は本来のサービス向上に集中できるようになりました。
経営支援で使っているチェックリストの紹介
あなたのクリニックや施設でも、すぐに使えるチェックリストです。
一つでも多く「YES」をつけられるように改善していきましょう。
- [ ] 3ヶ月先までの資金繰り表を作成しているか?
- [ ] 診療・介護報酬の入金日を正確に把握しているか?
- [ ] 業者への支払いサイトを見直したことがあるか?
- [ ] 不要な在庫を抱えていないか?
- [ ] 突発的な支出に備える予備費(現金)はあるか?
- [ ] 活用できる補助金・助成金がないか定期的に調べているか?
- [ ] 金融機関と定期的にコミュニケーションを取っているか?
「守り」と「攻め」のバランスを取る意思決定の視点
キャッシュフロー管理は、単なる「守り」の経営ではありません。
資金繰りが安定して初めて、質の高い医療・介護を提供するための設備投資や人材採用といった「攻め」の経営判断が可能になります。
キャッシュフローを安定させることは、経営者が目先の資金繰りに追われることなく、未来のための意思決定に集中するための土台作りなのです。
この「守り」と「攻め」のバランス感覚こそが、持続可能な経営を実現する鍵となります。
まとめ
資金ショートを防ぐために大切な考え方
ここまで、医療・介護現場におけるキャッシュフロー管理術について解説してきました。
最後に、最も大切なポイントを振り返ります。
- 見える化:まずは資金繰り表を作り、お金の流れを正確に把握すること。
- 制度活用:ファクタリングや補助金など、使える制度を「知って」「賢く使う」こと。
- 習慣化:経営者自身が数字から逃げず、定期的に資金状況をチェックする習慣をつけること。
これらの取り組みが、あなたの事業を資金ショートの危機から守る強力な盾となります。
「見える化」「制度活用」「習慣化」がカギ
資金繰りの悩みは、決して一人で抱え込む必要はありません。
正しい知識を身につけ、一つずつ行動に移していけば、必ず道は開けます。
明日からできる第一歩:まずは自社の資金の流れを整理してみよう
この記事を読んで「やらなければ」と感じていただけたなら、ぜひ、最初の小さな一歩を踏み出してください。
それは、来月の入金予定と支出予定を、一本のペンと一枚の紙に書き出してみることです。
その一歩が、あなたのクリニックや施設を、そしてあなた自身の心を守る、最も確実な一歩となるはずです。
もし具体的な進め方で迷うことがあれば、いつでも私のような専門家を頼ってください。